2023.6.2

公共空間が変われば、日本の風景が変わる【#01 OpenA 代表取締役 馬場正尊】

東京R不動産・公共R不動産など不動産業界に新しいカルチャーを生み出す

インタビュー
#まちづくり#グッドロケーション#路面物件#商業施設

一風変わった物件情報を扱う「東京R不動産」でリノベーションブームを牽引し、公園や廃校になった学校などを紹介する「公共R不動産」で新しい公共施設の使い方を提案するなど、設計事務所代表でありながらも不動産業界に新しいカルチャーを生み出してきた、OpenA代表の馬場正尊さん。

最近では、公園の中に球体の宿泊施設を作り話題となった「泊まれる公園 INN THE PARK」を自ら経営・運営するなど、馬場さんの周りには常に「面白い」仕掛けが生み出されます。

どこからそんな発想が生まれ、行動に移せるのか?馬場さんに聞いてみました。

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設計事務所OpenA代表の馬場正尊さん。東京R不動産をはじめ常に新しいカルチャーを生み出す。

—馬場さんの面白い仕掛けはどこから来てるんでしょうか?まずはR不動産の経緯を教えてください

馬場正尊さん:約20年前、設計事務所を立ち上げたばかりだったころ、事務所を借りるのになかなか良い物件が見つからなかったのがきっかけです。普通の優良物件じゃなく、なんか味があって面白いとかここは空いてそう、みたいな物件を見つけては、それを勝手にブログで発信していたのが最初でした。それから、仲間たちと面白い物件を探して、不動産の仲介ができるように免許をとってサイトを作ろうと「東京R不動産」を立ち上げたのがスタートです。

それで、少しずつ地元の不動産屋さんとも仲良くなり、「君たち変な物件好きだよね」って、変な物件ばっかり集まるようになって。

—最初から手ごたえはあったんですか?

いやー、全然ないですよ。ただ自分たちが面白がって趣味的にはじめたんで(笑)”空き物件から見る東京の街の観察記”みたいな感じで、ジャーナリスティックというか街歩きブログの延長みたいな感じでしたね。

—でも、その趣味が徐々に注目されていくんですよね?

そうですね。紹介してると変な物件が好きな人が世の中には結構いて、問い合わせも来るようになって。当時は世の中的に空き家問題が言い始められた頃だったから、そういう目線からも日経新聞が取材に来てくれたり、雑誌で特集をしてもらったりと、話題になったっていうのはありましたね。

—そこから全国にもR不動産ができていった

それが実はすぐにできたって訳ではなくて、東京R不動産をスタートして、10年くらい経ってから金沢R不動産ができたんですよ。そこから徐々に福岡とか大阪でもやりたいって人が出てき始めた感じですね。

—馬場さんは、エリアリノベーションという言葉も作られたんですよね?

はい。東京R不動産を始めたCETエリア(東京の日本橋、馬喰町、浅草橋界隈)もそうですけど、面白い空き物件に変わり者が店を出して、そうするとまたその近くに面白い店ができて、そしたらさらに面白い人が現れて、っていう風に点がどんどん広がっていって、面になって街が変化していくのを各地方でも目の当たりにするんですよね。

いわゆるマスタープラン型の都市計画とは違うプロセスで街の変化が起こっているなと。面白い店が集まってくるとそのエリアにカルチャーが生まれるような。その現象が面白いなーと思って、それをエリアリノベーションと呼んで、そういう事例を取材をしてまとめた本「エリアリノベーション 変化の構造とローカライズ」を書いたんですよ。そうすると、今度は地方都市で困っている街とか行政の方からの相談や依頼が増えてきました。

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馬場さんが手がけたWebサイト・著書の一例

—公共R不動産を立ち上げたのはその後ですか?

そうです。エリアリノベーションを追いかけているうちに、次は公共が面白いってことに気づいて。

ニューヨークにブライアントパークという公園があって、元は麻薬の取引が行われるような暗いイメージの場所だったんですけど、民間が経営・運営するようになり、芝生が広がってかっこいいデザインになって、イベントが行われたりして、ニューヨークでもすごく注目されるクールな公園に変わっていくんですよね。

民間が公園を運営するとこんなに面白くなるんだってことを目の当たりにして、次にリノベーションをするべきは公共空間なんじゃないかと思って、「Re Public 公共空間のリノベーション」という本を書きました。今後べらぼうに余ってくる公共空間にすごい可能性があるし、そんな公共空間と民間をマッチングする必要があるんじゃないかということに気がついて、公共R不動産を作ったのが2015年ですね。

—正直、そんなに前からという印象です

時を同じくして、東京では南池袋公園という池袋の街中ある公園に関わり始めました。豊島区が民間に運営を委託するという話があったんで、公園内のカフェと連動してマルシェの運営などを企画して、それが好評で公園に多くの人が集まるようになりました。その頃には、国も公共施設をなんとかしなきゃっていう空気があって、国土交通省がPark-PFIという制度を始めたのが2017年。そこから全国的に公園のマネジメントを民間に委託するという動きがチラホラ出てくるようになりました。

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公設民営をコンセプトに様変わりした南池袋公園。(提供:nest)地元企業のカフェが公園に賑わいをもたらす。公園が変わると街のイメージもかわっていく。

—Park-PFIの制度ができてから、公共R不動産ができたのでしょうか?

ほぼ同時くらいで進んでたんだと思うんですよ。それが面白いのが、10年くらい前に、先ほどお伝えした「Re Public 公共空間のリノベーション」を読んだ国土交通省の、当時、公園緑地課の係長だった町田誠さんが、僕を訪ねて来てくれたんですね。

その時に、「この本は面白いけど、公園が不自由っていうのは実は違うんだよ」って僕らの認識が間違っていた点も指摘して来られて、「日本の公園の法律は実はもっと緩いし、もっといろんなことができるけど、各地方の自治体が自分達で条例で縛っててがんじがらめになってるんだよ。日本の公園を変えたいんだよね。僕は日本の公園がつまらないと言われるのはすごく嫌で。」って言っていたのが印象的でした。熱い人だなと思って。

それで一緒に変えていこうぜみたいな感じで意気投合しちゃって。その後、彼が公園緑地課の課長になって、Park-PFIを作ったんだよね。

—それはすごいですね!日本の制度を変えるのに、多少なりとも馬場さんの影響があったということですね。やはりPark-PFIができてから変わりましたか?

そうですね、制度ができてから6,7年経ちますけど世の中の価値観が激変しましたね。感度の高い自治体からどんどん制度を使って、民間への公募がなされるようになって色んな街でユニークな実例がでてきました。公園で商業活動をするっていうのが普通になってきていますよね。

—あと直近での活動や馬場さんがこれから面白いと思うものを教えて頂けますか?

沼津の廃墟になった少年自然の家をなんとかしてください、という公募に対して、"泊まれる公園"というのを提案したら通っちゃって、流れで自分でホテルの経営することにもなっています。ホテルっていっても、こんな公園の中に球体がある不思議な空間なんですね。

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静岡県沼津市の「泊まれる公園 INN THE PARK」。(撮影:阪野貴也)

—これ写真で見て衝撃的でした

次に福岡で国営公園のPark-PFIの公募があって、そこでも”泊まれる公園「INN THE PARK福岡」”を三菱地所さんらと組んで提案して採択されて、今はそちらも運営しています。

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「INN THE PARK 福岡」。公園から博多の街並みが一望できる。(撮影:阿野太一+楠瀬友将)

—他にも自ら運営している施設はあるんですか?

山形で東北芸術工科大学の先生もしてるんですけど、そのご縁で市の中心部にある小学校の廃校をリノベーションした”やまがたクリエイティブシティセンターQ1(キューイチ)”というのも運営しています。地元のおいしい食堂とか、本屋さんとか雑貨屋、家具屋さん、NHKの放送局とか、レンタルスペースやシェアオフィスが入ってるんですが、そこの運営管理ですね。

—それは、どういうスキームになるんでしょうか?

山形市から借りて、それを株式会社Q1がサブリースしています。自分たちでリーシングして。

そんなふうに、最近ではデザインと共に、運営もするようになりましたね。自ら運営しているのも、公共空間の新しい使い方の提案を自分たちでも実践してみている感じです。

—本当に多くのことを多岐にわたって手がけられていますが、馬場さんのその発想とかモチベーションの根源はどこにあるんすか?

基本的なモチベーションのベースに、「面白い風景を作りたい」っていうのがあるんですよね。面白い風景を作って、ワクワクするところに人が集まるし、事業も成り立つし。その実験をずっとしている感じですね。

—これから先、手がけていきたいことや、注目していることはどんなことでしょうか?

やっぱり地方都市に面白い風景をつくっていきたいという思いはありますね。

最近は広島県福山市の元そごう百貨店の廃墟をリノベーションしたんですけど、いわゆるパブリックスペースといろんなテナントが混在した施設を作ったんですね。元は地上9階・地下2階の建物なんですけど、まちの規模に対して床が多すぎるから、建物全部使わずに1階だけを使おうって決めちゃって。”屋根のある公園”というコンセプトで、外壁もぶち抜いて、人が入りやすくしてオープンな空間にしました。

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外壁を一部壊し、大きく街に開いたiti SETOUCHI(提供:福山電業)

他には、どこかの海辺とか湖とか、そんなところでチャンスがあれば「面白い風景づくり」をやってみたい。デザイナーとしてのデザイン的な欲求も満たせて、ストーリーと必然性があるような。

—ぜひ、面白い街をどんどん仕掛けていってください。ありがとうございました。

馬場さんのその目線の先には「面白いこと」と「時代の先読み」の両方を感じることができました。これからも各地方でエリアリノベーションが起き、公共施設の活用が生まれ、新しい日本の風景が生まれていくことを期待します。そしてBamooveでもその一躍を担っていきたいと強く思いました。

Bamooveでは、このように店舗出店や商業施設に関わり成功している方や、まちづくりなどの新しい取り組みをされている方などにインタビューをしていきます。今後も是非ご期待ください!

#まちづくり#グッドロケーション#路面物件#商業施設

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